軟骨異栄養症の治療


③ 合併症

合併症


成長ホルモン製剤投与当初、最も問題になったのは、骨格の変形がより増悪しないか、これによって水頭症などの合併症が発症しないかということでし た。つまり、軟骨異栄養症では軟骨に異常があるために、内軟骨性骨化という軟骨からの骨の形成に異常が生じ、膜性骨化という軟骨が関係しない骨の形成には 異常がありません。もし、成長ホルモン製剤の投与によって、内軟骨性骨化が刺激されると、今までかろうじて維持されていた内軟骨性骨化と膜性骨化のバラン スが壊れてしまうのではないかという心配があったのです。
 実際に3歳までの軟骨異栄養症で合併する水頭症は、内軟骨性骨化によってつくられてくる頭蓋底が形成不良で、頭から出ていく静脈が通過する骨の穴が小さ く、静脈が圧迫されて脳脊髄液の吸収が悪くなっていることが原因であると考えられています。また、同じ理由で脊髄が通る穴である大後頭孔も小さく、神経、 つまり脊髄や呼吸中枢のある延髄を圧迫することがあります。これによって軟骨異栄養症の最も重篤な合併症である突然死が発生する可能性があります。
 しかし現在までのところ、重篤な合併症で成長ホルモン治療に関連付けられるものはありません。これは、合併症が3歳以前に発症していて、成長ホルモン治 療の対象とはなっていないことによると思われます。実際、脳脊髄の収納スペースの発育は3歳までにはほとんど完成しています。これが成長ホルモン治療の開 始が3歳程度以上とされる理由です。
 現在までに重篤な合併症として成長ホルモン治療の中止に至った例はすべて、開始時よりすでにその合併症を有しており、それが重症化したものです。脊柱の 変形は成長ホルモン治療によって悪化する危険があります。同じようにO脚も悪化する危険があります。このように骨格系の変形は特に慎重に評価すべきだとい えます。
 また、四肢短縮型低身長症と同様の体型を示す病気に偽性軟骨無形成症がありますが、この病気は、軟骨基質の異常によって生じる病気で、関節障害を合併し ます。この疾患に成長ホルモン治療を行うと、関節障害が強くなります。軟骨異栄養症においても骨格の評価を十分に行わずに成長ホルモン治療を行った場合、 身長が伸びないばかりか、骨格変形の悪化による痛みの増加や、成長ホルモン治療による体格の変化が膝などの荷重関節の障害を悪化させる恐れすらあるので す。
 軟骨異栄養症の骨格では、このほかに環軸椎の亜脱臼というものもあります。頭蓋骨を乗せる第一頸椎は輪の形をしています。この輪のなかに第二頸椎の歯状 突起が入り、首の回旋運動を行うために必要な関節をつくっていますが、軟骨異栄養症ではこの軸となる第二頸椎の歯状突起が小さく、無理な力がかかるとずれ てしまいます。これを環軸椎の亜脱臼と呼びます。このような合併症を避けるためにはマット運動は避けるべきです。
 このような骨の合併症以外に、軟骨異栄養症で最も多くみられるのが中耳炎と睡眠障害です。頭蓋底が小さいために鼻からの空気の通り道が狭くなっていて、 これにアデノイドや扁桃肥大が加わるとさらに空気の通り道は狭くなります。また、子どもでは中耳と鼻腔を結ぶ管がほとんど水平に走っています。これら2つ の理由で鼻のなかから細菌が中耳に入り込みやすくなっているのが中耳炎の多い理由です。この状況は、通常の子どもに起きる中耳炎と変わりがありません。最 近、わが国でも子ども用の肺炎球菌ワクチンが使用できるようになりました。肺炎球菌は中耳炎の原因菌となりやすい細菌ですので、このようなワクチンの接種 で感染を予防することも大切です。
 就学前の軟骨異栄養症患児の95%、学童患児の90%にいびきが観察され、そのため、無呼吸を示すものが各々45%、20%といずれも著しく高いことが 分かっています。また患児全体の85~90%は口呼吸を示すことも知られています。われわれの検討でも45%の幼児期患者で睡眠時無呼吸が観察されまし た。これも空気の通り道が狭いために起きる合併症です。成長ホルモンはリンパ組織を大きくする作用があります。このため成長ホルモン治療によって空気の通 り道はさらに狭くなる恐れがあります。また、年齢的にも7~8歳まではリンパ組織は大きくなっていきますので、さらに事態は難しくなります。7~8歳まで は睡眠時ポリグラフなどで無呼吸の状態を定期的に評価し、経鼻的持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)などの呼吸補助の導入やアデノイド切除、扁桃摘除の適応を考える必要があります。
 

田中 弘之 / 岡山済生会総合病院小児科 診察部長
(清野 佳紀監修 : 改訂版骨の病気と付き合うには,メディカルレビュー社 : 64-66,2010)

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