軟骨異栄養症の治療


① 低身長に対する成長ホルモン治療

軟骨異栄養症の低身長は成長ホルモン投与で改善されるか?
成人身長はどうか?


現在、成長ホルモン分泌が悪いために起きた低身長症に対しては、在宅皮下注射で成長ホルモン0.175mg/kg/週を5~7回に分けて投与が行われています。この投与量自体、成長ホルモンが足りなくて身長が低い人たちの治療量として適当であるか否かは議論があります。実際、世界的には投与量として少ない部類に入ります。
 軟骨異栄養症における低身長を内科的に治療できるかどうかをはっきりさせるために治験を行ったわけですが、本治験では通常の低身長症に対するのと同じ投 与量と、それの2倍に相当する0.35mg/kgの2種類の用量が試験されました。短期の結果を図2に示します。この結果から分かりますように、 0.175mg/kg/週の用量では十分な効果は期待できない可能性があります。
 成長ホルモン分泌不全を含む低身長症に対して成長ホルモン製剤が投与されていますが、これらの成績では、成長ホルモン製剤の効果は投与1年目が最も高 く、その後、年を経るごとに効果は弱くなることが示されています。軟骨異栄養症においても同様で、身長増加促進効果は治療年数を経るほど低下していきます (図3)。成長科学協会に登録されているデータでは、身長増加速度は治療開始後1年目では有意な増加を示します。また、1施設で行われた、遺伝子診断で軟 骨異栄養症と診断された35例の報告*では、加齢に伴う身長増加率の低下は、成長ホルモン治療群では明らかに少ないということです。


※ 1週間に体重1kgあたり0.175mgの成長ホルモン製剤を5~7回に分けて投与します。
    体重20kgなら0.175×20=3.5mgを5~7回に分けて投与します。

* Ramaswami U, Rumsby G, Spoudeas HA, et al.: Treatment of achondroplasia with growth hormone: six years of experience. Pediatr Res 46: 435-439, 1999

 

成人における身長を決定するのに一番大きな要因は、思春期です。男性ではこの時期25~30cm、女性では20~25cm程度の身長増加が約3年間 で起きて、成人の身長になります。つまり、性腺の発達が成人の身長を決めるのに一番大事だということです。ところが、軟骨異栄養症ではこの時期になっても このように身長が爆発的に伸びることはありません(図4)。また、先に述べましたように、思春期が少し早くなる傾向があります。身長は骨の長さによって決 まるので、骨の成熟状態を測定し、何歳相当の骨なのかということが分かれば、骨が成熟したらどのくらいの身長になるのか予測することができます。これが骨 年齢と呼ばれるもので、普通は手のひらのX線写真を撮ることによって判定します。成長ホルモン製剤はこの骨の年齢を早める働きがあるかもしれないといわれ ています。成長ホルモン製剤が骨の年齢を進めすぎると、早く大人の骨になってしまって身長が伸びなくなる恐れがあります。軟骨異栄養症では、手のひらの骨 の形が少し異なっているので、正確には判定できませんが、図5に示すように、骨年齢は暦年齢に比較して促進傾向にあり、その傾向は治療期間が長くなるほど 強くなるようです。このため、思春期の始まる前後で成長ホルモン治療を開始しても身長増加の効果は芳しくありません。現在まで幼児期から成長ホルモン治療 を行って成人に達した人の数はまだ十分ではありませんが、思春期年齢になる前に成長ホルモン治療を始めた場合、成人の身長をおよそ5~7cm程度高くする ことができるようです。

 さて、患者にとって低身長は問題ですが、さらに切実な問題となるのは手足が短いことです。これに対して成長ホルモン治療はどのような効果を表すの でしょうか。正確な評価には骨のX線写真から骨長を計測することが必要ですが、現在まだその解析は進んでおらず、身体計測の結果から判断せざるを得ませ ん。図6に座高と身長からみたプロポーションの変化を示します。この結果からは、成長ホルモン製剤の投与によって伸びているのは体幹だけではなく、手足も 同じように伸びていて、一部の症例ではプロポーションの改善も期待できるかもしれません。しかし、成長ホルモン治療により座高が四肢骨より伸長することで プロポーションの異常は目立ってくるといっている患者もいます*

* Ramaswami U, Rumsby G, Spoudeas HA, et al.: Treatment of achondroplasia with growth hormone: six years of experience. Pediatr Res 46: 435-439, 1999

 

田中 弘之 / 岡山済生会総合病院小児科 診察部長
(清野 佳紀監修 : 改訂版骨の病気と付き合うには,メディカルレビュー社 : 55-59,2010)

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