健康な日本人を対象に、1日に必要な栄養素の摂取量の基準を最新の科学的な根拠に基づいて示したものが「日本人の食事摂取基準」です。厚生労働省が5年に1度改訂を行い、現在は2020年版が栄養に関するさまざまな場面で用いられています。
ここでは、カルシウムとリンという骨の主要構成成分の吸収に重要なビタミンDの食事摂取について説明します。表1に摂取基準を示しました。ビタミンDの量は μg/日で書いてあります。ビタミンDは国際単位(IU)で表すこともありますが、5μgが200IUに相当します。
表1
厚生労働省.日本人の食事摂取基準(2020年版)
地域(緯度)、天候、時間帯によって、皮膚で合成されるビタミンDの量は大きく異なりますが、ビタミンDの生成には適度な日光浴も重要です。1)
日照を受ける機会が少なく、もっぱら母乳で育った乳児では、くる病の危険が高くなります。このような場合にくる病の発生を予防するためには、5μg/日程度のビタミンD摂取は必要となります。
現在ではビタミンDの働きはカルシウム、リンの調節だけではなく、筋肉の発達や免疫反応にも大変重要だと考えられています。一方、皮膚癌などの皮膚障害を予防するため小児期に日照の制限が行われている現状を考えると、健康維持のためにビタミンDの摂取量に関心を持つ必要があるでしょう。
令和元年国民健康・栄養調査では、乳幼児期を除き、平均のビタミンD摂取量は5μg/日以上です。また、表2にビタミンDをたくさん含む食品をまとめました。
一方、栄養の過剰な摂取は害となりかねません。ビタミンDは脂溶性ビタミンで、ビタミンBやCなどの水溶性ビタミンとは違い、体のなかの脂肪に蓄えることができます。このようなビタミンとしては他にAやK、Eがあります。
体に蓄えることができるということは一見便利なように思えますが、入りすぎて蓄える能力を上回ってしまった場合には、血液にあふれ出して、過剰症を引き起こします。ビタミンDは血液中のカルシウム量を上げる作用がありますので、ビタミンDの過剰症は高カルシウム血症となります。高くなりすぎたカルシウムは腎臓に沈着したり、血管を縮めたりして、頭痛、吐き気、高血圧、腎機能の低下、尿が出なくなるなどの症状を引き起こします。
通常の食品には過剰症を引き起こすほどのビタミンDは含まれておらず、普通は食事で過剰症となることはありませんが、健康食品やサプリメント、総合ビタミン剤をたくさんとりすぎると過剰症となる危険があります。食事摂取基準では、「これ以上摂取すると過剰症となる摂取量」が耐容上限量として表されているので、注意しましょう。
1 M Miyauchi et al. J Nutr Sci Vitaminol, 59, 257-263, 2013
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